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蜜貿易天国 - 金門島流離譚 [海外旅行の周辺]

中国大陸・アモイからわずか数キロ沖に金門島という島がある。この島が台湾領であることを僕が知ったのはつい最近だ。地理的にはほぼ中国本土にあるといっても過言でないこの島が、なんで台湾領なのだ、と疑問に思っていた。
金門島流離譚
金門島地図

が、それは大陸と台湾の歴史を知らなさ過ぎる自分の無知をさらけ出していたに過ぎなかった。

国民党政府が台湾に逃げきた際、共産党軍を食い止めるため、総力を結集して防波堤として要塞化したのが、この金門島であった。

以来、この島は台湾領(北京政府的には台湾が実効支配している島という表現になるのだろか)として今に至っている。

軍事機密の一杯詰まった島だから、一般台湾人がこの島を訪れることができるようになったのは、大陸と台湾の経済交流が盛んになった最近の話だ。

この島は複雑な背景を背負っている。

この島の経済交流の多くは大陸との密貿易だという。めぼしい産業のない島にとって、密貿易は事実上島の経済をささえている。そして、台湾当局が強行に取り締まりを行えば、その影響は大陸側業者やそこに利権をもつ大陸の実力者にも及んでしまう。

そのため、台湾当局も厳しい管理を差し控え、ささやかな密貿易は目こぼし状態だという。

金門島流離譚 そんな蜜貿易天国に流れついた日本人貿易商を主人公にしたハードボイルドが船戸与一の「金門島流離譚」だ。

密貿易以外大した犯罪もなかった島に、次々と殺人事件が起きる。その真実を解明していく過程において、登場人物たちの背負っていた歴史が明かされ、そこに中国・台湾・日本の間にある複雑な関係が、事件とともに解き明かされていく。

作者一流のエンターテイメントな文体がグイグイと読み手を引っ張り、一気に読みきってしまった。

そして物語を愉しむと同時に、複雑な三国の歴史をうかがい知る。深い一冊だ。




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